Owners Voice AKIYATOのオーナーの声

#009
香川県
日常を脱ぎ捨てる、小さな旅へ 金子様

海と空のあいだに、ふっと肩の力が抜ける場所がある。

香川県にある宿泊施設 Sei-Jima Retreat は、ただ泊まるためだけの宿ではない。慌ただしい日々から少し離れ、自分の呼吸を取り戻すための“余白”のような場所である。

今回、この場所を訪れたのは、同施設のオーナーでもある金子様。実際に滞在してみてどうだったのか。写真や動画では伝わらない現地の空気、サウナで過ごす時間、和室で迎える朝、そして“所有する宿”という新しい価値について語ってもらった。

写真で見ていた景色の、その先へ

金子様は、神奈川県横浜市からこの地を訪れた。羽田空港から高松空港へ向かい、そこからバスで現地へ。都市のスピード感をまとったまま旅立ち、少しずつ時間の流れが緩やかになっていくルートである。

到着前には、すでに施設の写真や動画を見ていたという。今の時代、旅先の多くは事前に画面の中で知ることができる。けれど、実際にその場所に立ったとき、人はまったく別の感覚に出会う。

金子様が口にしたのは、率直で印象的な言葉だった。

「実際に来てみて、非日常をすごく感じました。印象が良くなりました」

画面越しに見ていた建物や景色が、現地では空気の温度や風の匂い、音の静けさまで伴って立ち上がる。旅の本質は、やはり五感で触れることにあるのだと感じさせる一言である。

思っていた以上に、きれいで静かだった

寝室天井のダイナミックな絵に驚き、思わずシャッターを切る金子様

施設について、金子様は「思ったよりも綺麗だった」と語った。

さらに印象的だったのが、静けさへの評価だった。

「静かですし、本当に非日常になって、全部リフレッシュできる感じでした」

静かな場所は、意外と少ない。音がないというだけではなく、心まで静かになれる場所となると、なおさらである。街では常に何かが鳴っている。通知音、車の走行音、人の会話、予定に追われる心のざわめき。

そうしたノイズから離れたとき、人はようやく自分の輪郭を取り戻す。Sei-Jima Retreat にあるのは、そんな静けさである。

窓の外に広がる景色、ゆっくりと流れる時間、必要以上に何も主張しない空間。そのすべてが、宿泊者の心を自然に整えていく。

サウナは、整う場所であり語り合う場所でもある

仲間とともにサウナで夜を過ごすリラクゼーションな一日の終わり方

滞在中のハイライトのひとつが、施設内のサウナ体験だった。

金子様含めたゲストたちは4人でサウナに入り、気づけば1時間ほど過ごしていたという。数字だけ見れば長い時間だが、心地よい時間はいつも短く感じられる。

温度はおよそ70度。一般的な高温サウナに比べれば穏やかな設定である。ゲスト自身は「もう少し熱い方が汗をかいてリフレッシュできるかもしれない」と率直に話していたが、それ以上に高く評価していたのは、そこに流れる空気感だった。

「4人で入って、いろいろな会話ができたので良いサウナだなと思いました」

サウナには、不思議と本音が出やすい。スマートフォンも持たず、肩書きも予定表もいったん外に置いて、ただ汗をかきながら向き合う時間。そこでは会議室では生まれない会話が始まる。

整う、という言葉は身体だけに向けられるものではない。人間関係もまた、こういう時間の中で整っていくのかもしれない。

畳の香りと、布団で迎える朝

展示された和服に興味を持つ金子様

宿泊した部屋は和室だった。普段はベッドで眠る生活をしている金子様にとって、畳の部屋に布団を敷いて休むのは久しぶりのことだったという。

「気持ちよく目覚めることができました」

この感想には、どこか懐かしさがにじむ。

畳の香り、床に近い目線、布団にもぐり込む感覚。和室には、ホテルの快適さとは別の心地よさがある。幼いころ祖父母の家で過ごした夏休みや、家族旅行の記憶をそっと呼び起こすような、静かな情緒である。

眠るという行為は、空間の影響を強く受ける。無機質な部屋では得られない安心感が、和室にはある。深く眠り、すっきり目覚める。そんな当たり前の豊かさを思い出させてくれる滞在だったようだ。

朝の光さえ、ひとつの体験になる

一方で、率直な改善点も語られた。

朝が早く、自然光によって早い時間に目が覚めたというのである。手前の部屋にはカーテンがなく、朝日がそのまま差し込む構造だった。

都会であれば「遮光カーテンがないのは不便」と片づけられる話かもしれない。だが、この宿では少し違って聞こえる。なぜなら、朝日で目覚めるというのは本来、人にとって自然なことだからである。

もちろん、快適性の向上として遮光対策は有効である。けれど、鳥の声と朝の光で目を覚ます体験もまた、ここならではの贅沢であるともいえる。

便利さだけでは測れない価値が、この場所にはある。

オーナーになるという、新しい旅のかたち

金子様は、今回の宿泊者であると同時に、この物件のオーナーでもある。

なぜ所有を決めたのか。その問いに対して、答えは意外と現実的だった。

「新しいマンション投資も持っていますが、利回り的にはこちらの物件の方が良かったので、一口購入しました」

感情論だけではなく、投資対象としても合理性がある。これは空き家再生事業において非常に重要な視点である。社会的に意義があっても、持続可能でなければ続かない。

その点、Sei-Jima Retreat は「社会課題の解決」と「経済性」の両立を目指すモデルとして成立している。

さらに、所有した上で現地を訪れることには、宿泊客とは異なる感覚もある。

「まず物件を見たいという思いがありましたし、いろんな方と出会って話ができることも楽しみでした」

泊まりに来るのではなく、自分が関わる場所に帰ってくる。そんな感覚に近いのかもしれない。

実家を残したい人へ、もうひとつの選択肢

インタビューの終盤、これからオーナーを検討する人へ向けて、金子様は空き家問題と実家への思いを重ねながら語った。

「思い出のある実家を残したい方には、とても良い仕組みだと思います」

家は、単なる建物ではない。

そこで育ち、笑い、時には泣いた記憶が染み込んでいる。けれど、住む人がいなくなれば、維持は難しくなる。手放すしかないと考える人も少なくない。

そんなとき、宿として再生し、誰かに使ってもらいながら残していくという選択肢がある。さらにオーナーとして自分も泊まりに来られるなら、その家との関係は切れずに続いていく。

これは不動産活用というより、記憶の継承に近い発想である。

宿は完成品ではなく、育っていくもの

宿はオープンした瞬間に完成するのではない。訪れる人の声を受け取り、少しずつ磨かれ、時間とともに魅力を深めていく。

サウナの温度、部屋の快適性、滞在プログラム、オーナー同士の交流。そうした一つひとつが積み重なって、この場所だけの個性になっていく。

完成されたホテルに泊まるのではなく、育っていく宿に関わる。そこに面白さがある。

ここには、少し人生を整える力がある

Sei-Jima Retreat は、豪華さを競う宿ではない。

その代わりにここには、日常から離れる静けさがあり、人と深く話せるサウナがあり、懐かしい和室があり、未来へつなぐ所有の仕組みがある。

泊まって終わりではなく、また来たくなる。

訪れて終わりではなく、関わりたくなる。

そんな宿は多くない。

少し疲れたとき、少し考えたいとき、あるいは何か新しい視点が欲しいとき。ここには、人生のリズムをそっと整えてくれる時間がある。